25 短編小説『男と生きものたち』

短編小説『男と生きものたち』
つくり手遠藤源一郎えんどう げんいちろう
レコメンバー田澤紘子たざわ ひろこ

推薦文

源一郎さんの小説は、どれも私小説に近い印象を受けるのだけど、その中でも『男と生きものたち』は、ここに生きている人が書いているのだと納得せざるを得ないほどの、土のにおいと生きものたちの気配が漂っている。

仙台市の新浜に暮らす源一郎さんはさまざまな顔を持つ。無農薬の作物を育てる農家、地域の世話役、市民団体の事務局、元市職員、そして小説家。現在は農業に勤しむ傍ら、「いつか芥川賞を」と日々小説を書き、賞に応募する生活を送っている。過去作『風は海から吹いてくる』などには、みずからの少年時代や新浜での暮らし、そして被災体験や震災後のまちの風景が事細かに描写されている。
仙台の沿岸地域で聞き書きの活動をしている田澤さんは、沿岸部に住む人から「源一郎さんの小説は自分たちの気持ちを代弁してるみたいだ」と聞いたことがあり、文学の持つ力を改めて実感したのだという。 田澤さんのイチオシは、『男と生きものたち』。日常の連続の中に、土地に住まう生き物たちと源一郎さんの関わり合いが見えてくる。