2019年展覧会実施概要

『レコメン堂』はじまりの背景

主催者である “やわらかな土から”は、震災後の東北でさまざまな“表現のようなもの”に出会い、それらを記録し、伝える活動をしてきました。たとえば、津波で洗われたまちの跡を歩くと、自宅跡に無数の花を植えて彩ったり、かつてその場所にあったものを知らせてくれる小さな看板が立っていたりすることがありました。これらは、絵や彫刻といった既存の表現方法には当てはまりにくいものですが、大切な動機によって生まれたものであり、見る者のこころを打ちます。困難や迷いに直面し、その状況を突破するために立ち上がろうとするとき、人は思いがけない技術を編み出し、なにかしらの“表現のようなもの”を生んでしまうものなのかもしれません。

震災から8年あまりが経ったとき、ふと取り戻しつつある日常を見渡してみると、そうした行為は、日々の暮らしのそこかしこにも存在するものだと気づくようになりました。けれど、日常の片隅でひっそりと生まれる“表現のようなもの”たちのほとんどは、決して華々しいものではなく、ましてつくった本人にとっては当たり前すぎて、その価値にすら気づかない場合も多くあるでしょう。すると、私たちが個人の日常を忙しなく生きている限り、自ら主張することのないそれらには、出会うことすらできないのです。

しかし、もしどこかで生まれた“表現のようなもの”の傍らに、それを見出す他者のまなざしが存在したら。そして、その人の声に耳を傾け、驚く人がいたら。

“表現のようなもの”たちが持つ魅力自体はもとより、その背景にある技術や思い、歴史が分有されていく可能性がぐっと開かれるのではないでしょうか。


2019年、『レコメン堂』が生まれました

そこで私たちは、2019度、レコメンバー(=他薦者)の視点を介して“表現のようなもの”に出会う場をつくろうと考え、一般公募にて展覧会の参加者を募集し、ジャンルを越えて宮城県内外から集まった50組の出品をご紹介しました。

自分が大切だと感じる、尊敬する“表現のようなもの”を展覧会で見せるにあたり、レコメンバーたちはつくり手やその関係者に、つくられたものの背景をあらためて尋ねました。調査を経て紐解かれた事柄を、つくり手や見る人への配慮を持ちながら、自らの言葉で、どこまで、どうやって他者へと手渡していくか。その模索は、レコメンバーとつくり手が丁寧な関係性を築きあうなかで、いまも続けられています。

レコメンバーの視点を通して、まだ見ぬ誰かが生み出した“表現のようなもの”たちに出会うことで、私たちの暮らすまちや世界に確かに存在する、いとおしさの一端が見えてくるかもしれません。


実施概要

展覧会「レコメン堂」

会期:2019年11月8日(金)~2020年2月1日(土)

会期中の金土日 13:00~20:00

会場:東北リサーチとアートセンター[TRAC]

入場無料

主催:やわらかな土から

せんだいメディアテーク(公益財団法人仙台市市民文化事業団)

企画:やわらかな土から


関連イベント

◆てつがくサロン「表現ってなんだろう?」

11月22日(金)19:00~21:00

会場:TRAC


てつがくサロンは、気になる事柄についてを、対話を通して参加者それぞれの考えを深めていく場です。今回は「表現ってなんだろう?」というテーマのもと、表現と内面との関わり、表現と社会との関係を改めて探りながら、表現を発見する側のまなざしについても意見が交わされました。


てつがくサロン「表現ってなんだろう?」記録写真1 てつがくサロン「表現ってなんだろう?」記録写真2 てつがくサロン「表現ってなんだろう?」記録写真3

◆レコメンバトル&交流パーティ

12月15日(日)14:00~16:00

会場:メディアテーク7階スタジオa

ゲスト審査員:佐藤ジュンコさん(イラストレーター)

審査員:やわらかな土から


レコメンバーたちが自分のイチオシの“表現のようなもの“をプレゼンしあうレコメンバトル。写真を用意したり文章に書いて思いを整理したり、ときにつくり手とタッグを組みながら、レコメンバーは紹介するものの魅力を、自分の言葉で他者に語り伝える試みをしました。


当日のレポートはこちらから


レコメンバトル&交流パーティ記録写真1 レコメンバトル&交流パーティ記録写真2 レコメンバトル&交流パーティ記録写真3

◆ギャラリーツアー

12月15日(日) 17:00~19:00

会場:TRAC


ギャラリーツアーでは、企画が進む中で見えてきたことを振り返りながら、企画者の解説を交えて出品物を改めて鑑賞しました。表現のつくり手たちも参加し、出品物やその後の活動についてを語り合いました。


ギャラリーツアー記録写真1 ギャラリーツアー記録写真2 ギャラリーツアー記録写真3