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五本松神楽
つくり手佐藤徳政さとう とくまさ
レコメンバー千田優太ちだ ゆうた

推薦文

東日本大震災で甚大な被害を受けた陸前高田市。思い出の場所が、かさ上げ工事にために土の下になる。この五本松を取り巻く過去、現在、未来を伝播させていくための装置として創作された神楽。現存する郷土芸能が何百年前に生まれた、その時を想起させる表現。

五本松神楽を創出したのは、陸前高田市で生まれ育った佐藤徳政さん。出身は、震災による津波で大きな被害を受けた高田町森の前地区。そこには集落の人々が古くから大切にしていた『五本松』という巨石があった。佐藤さんが幼い頃から慣れ親しんだ風景は流され、その地に根ざした巨石だけが残った。
あるとき、佐藤さんは地域のイベントで伝統芸能の神楽を見て、昔の記憶を表現する営みに魅せられた。そして、陸前高田の自然やかつての暮らし、震災の記憶、人々のつながりなどを伝えたいという想いから、2016年5月のある朝5時に、巨石の上で自身が踊る舞いとしてこの神楽を舞った。
千田さんが初めて五本松神楽を観たとき、小道具を100円ショップなどで揃えたり、舞いを動画で記録し仲間と共有したりという現代的なあり方に感心しながらも、「現代に伝わっている郷土芸能のはじまりも、こんな感じだったのかな」と思ったそうだ。佐藤さんから後世の人々へと、長く受け継がれてほしいと語ってくれた。