9 句集「花筏(はないかだ)」より 父の人生を追想するふたつの句

句集「花筏(はないかだ)」より、父の人生を追想するふたつの句 句集「花筏(はないかだ)」より、父の人生を追想するふたつの句
つくり手父・ブンエイ
レコメンバーせこ三平せこ さんぺい

推薦文

入院後ずっと「家に帰りたい」と言っていた父。自宅に戻り10日余り後、令和元年8月16日午前9時34分に看取る。父の生と死は何を表現しようとしていたのか……「認知症」「高齢者」「患者」「障害」などの言葉の中に閉じ込められ、もがいていた父の姿が、父が遺した句集の二句に重なった。父の人生に、最大の敬意と感謝を込めて。

今夏、三平さんは、父・ブンエイさんの入院生活、そして享年92歳で息を引き取るまでの最期の日々をともに過ごした。三平さんはブンエイさんの人生を振り返りながら、好々爺(こうこうや)のようだった父が、自らの思うままに生きられなくなり、選んだり表現したりする手段を失っていく中で、最期に何を表現しようとしていたのだろうと想いを巡らせている。
ブンエイさんは若い頃に教師として子どもたちと向き合う仕事をする傍らで、俳句や物語を綴っていた。今回推薦されたブンエイさんの二句は、三平さんが以前より好きな句だったが、晩年の父の姿や家族での看取りを通して、その句が表現しようとしていたものの感触を得たのだという。 「思い切り鳴くことのできる蝉、自由に枝葉を伸ばし成長する草木、水を得た魚。教育者としての父の望みはそういうことだったのかと思いますが、“そうなれなかったもの”たちへのまなざしをずっと持ち続けていたのだと思いました」と三平さんは語った。