41 正子さんの「民話がたり」

正子さんの「民話がたり」 正子さんの「民話がたり」 正子さんの「民話がたり」
つくり手伊藤正子いとう まさこ
レコメンバー福原悠介ふくはら ゆうすけ

推薦文

正子さんの民話は、目の前の誰かに向けて訥々(とつとつ)と語られていた。きっと自身が子どものころ、そのようにお話を聞いたからだろう。ただ聞いたように、ただ語ること。民話がかつて“口伝”であったことを、正子さんの“声”は直接的にあらわしていた。

映像に携わる仕事をしている福原さんが正子さんのお宅を訪れたのは、2012年、濱口竜介さんと酒井耕さんの共同監督作品・映画『うたうひと』の撮影でのこと。それまで民話に触れる機会がなかった福原さんは、完成した映画を観たとき、民話がテキストとしての形を持たない“口承文芸”であると直観的に理解できたと話す。名前も知らないような祖先から継承されてきた民話を語る正子さんの声は、綿々と紡がれてきた時間の流れを含みつつ、かつ現在そのものでもある。私たちが普段おこなっている、現在から過去へと遡るような記憶の想起の仕方ではなく、複数の時間軸が一同に呼び起こされるような体験がそこにあったと語る。
正子さんは生前、「自分は幼い頃、あまり人と話せず挨拶もできなかった」と話していたそうで、自宅とその周辺との行き来で暮らしが編まれ、他者と話すことの少ない日々の中で、民話が“社会”に接続するリアリティーの拠り所だったのではないかと福原さんは考えている。



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