27 詩集『窓辺にいて』

詩集『窓辺にいて』 詩集『窓辺にいて』
つくり手房内はるみふさうち はるみ
レコメンバー八木まどかやぎ まどか

推薦文

母が12年ぶりに出版した詩集は“やさしい沈黙”を教えてくれます。母にとっては2年前に亡くなった祖母の記録でもあります。庭、公園、家族など自らの目で見えるものを書きつつ、その視線は娘の私の語りによって知る被災した東北の風景にも伸ばされていました。

日常に当たり前のようにある美しいものを記憶のあるうちに書き留めておきたいと、はるみさんは子育てをしながら詩を書き留めてきた。近年、そのまなざしは沈黙や不在に注がれ、家族との関係、自らの母の死、娘の語りを通して知る東北の様子などが交差して、詩集『窓辺にいて』が編まれた。
病を患い、思うように書くことができない歳月の中で、もう一度詩を書きたいという気持ちがはるみさんの生活の拠り所となっていたのかもしれないと、娘のまどかさんは感じている。身近な風景を介して、その場にはないもの、言葉で語られない事柄や時間について捉え、より遠くへ伝えようと模索された詩の表現は、はるみさんにとって、生きるための杖のような存在でもある。
まどかさんは、母の詩集は忙しない日常を過ごす私をふと立ち止まらせて“静けさ”を思い出させてくれると語り、今年新しく詩集を作ったことで母自身が“沈黙の時間”から動き出したのでは、とも考えている。