21 写真集『あの日につづく時間』、 最後の一枚

写真集『あの日につづく時間』、最後の一枚 写真集『あの日につづく時間』、最後の一枚
つくり手高橋親夫たかはし ちかお
レコメンバー佐藤正実さとう まさみ

推薦文

昭和時代から風景を撮影し、写真を学び直した高橋親夫さんが、震災後に発表した写真集が『あの日につづく時間』だ。津波はことごとく沿岸部を破壊したが、人の手によって造られる人工物が次第に姿を現す様は、自然への畏れと共に人間の強さを示しているようにも見える。

親夫さんは、建築の現場で働く傍らで、2001年頃より、阿武隈川から貞山堀、北上川沿いまでの風景を記録して回っていた。当たり前の日常をなぜ撮るのかという自身への素朴な問いもある中で、風景はいつかなくなるかもしれないし、そうなってからでは撮れない。「地元の人間が残さなければ残らない」という実感が、地域の記録活動へと向かわせた。
『あの日につづく時間』は、震災後の沿岸部の風景写真をまとめた写真集である。被災した住宅基礎群の記録行為は、親夫さん自身の建築士や写真家としての役割だけでなく、慣れ親しんだ古い家屋への愛着から来るものでもある。その後の区画整備の過程で現れてきた<直線>については、これからの始まりであり、合理的に考えられた復興の形でもあると親夫さんは語る。レコメンバーの佐藤さんは、「写真集が畑の風景で締め括られているの親夫さんならではの視点だと思う。やわらかな線から、この土地の自然とともに生きる人たちの手跡が感じられ、これからも続いていく営みが想像できる」と話す。