8.舟要の書

舟要の書 舟要の書 舟要の書
つくり手笹谷由夫 ささや よしお
レコメンバー佐藤正実さとう まさみ

推薦文

仙台市宮城野区蒲生で生まれ育った笹谷由夫さん。震災後、ご自宅跡に再建した交流拠点『舟要の館』の外壁に、怒りや諦め、迷い、慈しみ、望みを、笹谷さんは愚直に書きしるす。笹谷さん自筆の言葉の力を感じて欲しい。

震災で被害を受けた地域の痕跡を辿る活動をする『3.11オモイデアーカイブ』の代表を務める佐藤さんを、「蒲生の現状と歴史を後世に伝えたい」と笹谷さんが訪ねてきたのは2014年のこと。初めて笹谷さんに会った時、佐藤さんは “おっかなさ”を感じるとともに、緊張感を絶やせない現場に居続ける笹谷さんの闘いを想像したと話す。震災でふたりの息子さんを含む親族を亡くした笹谷さんは、妻・ミエコさんとともに、息子たちの帰ってくる場所であり、住居を移転せざるを得なかった人びとが集える場所として、自宅跡地に『舟要の館』を建てた。
その後、生まれ育った蒲生が区画整備によって激しく変化していくことへの戸惑いを、計20枚以上の書に託すようになる。書くことで「気持ちが楽になっていった」というその書には、地震や防潮堤といった、ある具体的な何かに向けられた感情が書かれているように読み取れるが、佐藤さんは、その言葉は同時に笹谷さん自身に向けられているのではないかと考えている。

*書に記されている「かんつぁいのよすお」は、まぬけな由夫の意味。